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『ファイトソング』感想

 


『ファイトソング』


面白かった。正直なことを言えば、傑作とか優勝とかそういう感じではないけど、好きなタイプのドラマになりました。いや、1話の前半は結構不安になったけどね? 高田延彦の「出てこいや」ならぬ「入ってこいや」くらいしか見所ないなーとか思っていたけど、思えばその頃から丁寧(のんびり?) に進んだおかげで、今となっては「みんな幸せになってくれ!」という気持ちになっているのかもしれません。登場人物たちにこちらの思い入れが乗ってくるとグングン面白くなってきて、後半は尻上がりで楽しみになりました。その、なんというか、これ基本的な構造が少女漫画っぽいんだよね! そりゃ私は好きですよ!みんなも好きでしょ? 当て馬好きでしょ? 2番手のこと好きになるでしょ?

 

いわば、難病を抱えるヒロインと、そのヒロインを一途に思い続ける幼馴染、そしてそこに偶然という名の必然のように登場するのが、ヒロインが大好きな歌を作った張本人のミュージシャン…ってこの安心安定の三角関係。超定番のフォーマット。これでこのミュージシャン役が例えば山﨑賢人だったら、もう王道すぎて安心してニコニコしていたんですが、間宮祥太朗を配役したことがこのドラマ最大のポイントである。え、ここに、間宮祥太朗? 隣にジャニーズいるのに...? それはメタ的に間宮祥太朗のこれまでを知っていれば知っているほど、この恋のハッピーエンドを信じきれなくなるという。俺たちは試されているのだ…!間宮祥太朗、本当に君がハッピーエンドになるのか?

 

そしてなんならヒロインの清原果耶ちゃんも、普通に「恋とか関係ないです。私は私なんで」と強い意志と目力のまま走り出しそうだし、今作に限らず何かを背負わされがちなので、それぞれ頑張ろうエンドも、結ばれたけど結ばれないエンドもありそうで、こっち方面でもハッピーエンドを今ひとつ信じきれない。え! ってことは、じゃあ逆に2番手と思われる人物が実は本命なのでは?となりそうなところ、これまた菊池風磨がジャニーズなのに? ジャニーズだから? 完全に当て馬として燦然と輝いてるんだよな……。菊池=最高の当て馬=風磨は序盤からフルスロットルで、当て馬がやっちゃいけない行動選手権で全ポイント獲得オールクリア超満点みたいなムーヴをかまし続けるので、こっちはこっちで全然結ばれる気配がない。ネタバレ配慮につき詳細は省くけど、当て馬にとって大切なのは結果ではなくプロセス!と言わんばかりに楽しませてくれる。

 

といった具合に、キャスト全員がまあまあ報われなさそうなメンバーゆえに、先が読み切れない当て馬レース...いや恋愛模様が開幕するし、清原果耶作品ゆえのシビアな展開もあるんだけど、そうは言っても全体的には優しい物語である。噛み合わないことはあっても、明確な悪役は存在しない。ゆえに、ドラマで起こる問題には自分自身が向き合うしかないのだ…。まあそれって逆に苦しい場合もあるけど。

 

空手の日本代表を目指していたが、その夢が絶たれるし、腫瘍が見つかり手術が必要になるしでどん底になった主人公:花枝(清原果耶)と、事務所から残り2カ月でヒット曲を出さなければクビになるミュージシャン:芦田さん(間宮祥太朗)が、ひょんなことから出会って始まる期限付きの恋。芦田さんは過去に1曲だけヒット曲を産んだけど今は微妙な一発屋設定で、その当てた曲をずっと聴いていた超ファン…というか、もはや信者だったのが花枝で。その当てた曲である「スタートライン」は、なんというか絶妙にダサくて耳に残る具合がマジであの頃のヒットソングっぽくて良いし、曲調にサビの英語歌詞に間宮祥太朗の歌い方や風貌込みで、どことなく[Alexandros]っぽいなって思ってたら原曲はperfumeの曲で、アレンジバージョンとのことでした。しかし、本業歌手の藤原さくらも、ジャニーズ菊池風磨も、ミュージカル出身の東啓介もいるのに、そんな中で歌うのが間宮祥太朗である。だが歌上手いんだよな。ウォゥウォゥ言い過ぎなんだけど歌上手いんだよなァ!

 

そしたら芦田さんの提出期限と、花枝の手術日がいい感じに同じだから、あ丁度いいじゃーんと「恋の取り組み」と称した期間限定の恋を始めることになります。うむ、実にベタな展開だ。だがそれがいい。ふたりはなんだかんだ言いながらデートに行ったり反省会をしたりムササビのぬいぐるみを買ったりムササビのモノマネを強要したりして楽しそうな日々を過ごします。他には芦田さんにひとりでジェットコースターに乗らせたり、芦田さんがめっちゃ語るのを秒でぶった切ったりします。こうやって見ると花枝がヤバイやつみたいですが、芦田さんも結構ヤバイやつなのでイーブンで問題なし(?) ともあれ、このふたりの組み合わせだと、みんなだいすきな「年上男にズバズバ言う清原果耶」が堪能できるので良き。

 

そして花枝と幼馴染である、菊池=風磨のマは当て馬のマなのでは=風磨が演じる慎吾と、いつの間にかこんなにお綺麗になられた藤原さくらさん演じる凜ちゃんの関係性がマジ最高。幼馴染で慎吾は花枝を、凛ちゃんは慎吾を好きなんだけど、これも幼馴染ゆえ恋を超えて家族みたいで動けない感じな! 好きよな! たまらないよな! そして、ドラマが始まるのは、その安定しきった関係性に外からの異物が襲来したときで、それが芦田さんってわけ。雑に説明すると、花枝はひとに迷惑をかけたくないから黙るし、慎吾は暗い雰囲気になるのが嫌でふざけちゃうし、凛ちゃんは姉御肌で少し俯瞰しちゃうから当事者になれない、みたいな、それぞれがそれぞれの理由で“大切なことを言えない”似た者同士である。だけど変わる花枝を見て、そりゃ慎吾は焦るし、その慎吾を見たら凛ちゃんは動くしかないんだけど、根底には幼馴染の愛というか縁というか積み上げた日々が理由なのか、それぞれが全員の幸せを願っているのは間違いないんだよね。自分の気持ち云々より、相手を想うゆえに言えない。だけど、その気持ちは本当は誰のためなのか。自分の気持ちは自分のために言わなきゃ駄目だと気づくまでの10話だったのかもしれない──。

 

人生に後悔しないように始めた恋、人生で好きなものを続けるために始めた恋。双方の思惑は利害関係と一致して、想いに触れて、自分が変わっていく。恋愛が全てではないこの時代に、恋をすることを選んだふたり。選んだこと、選ばなかったこと。どちらが正解かは分からない。でもきっと、自分の気持ちと向き合って出した結論ならそれが正解だし、この先にその結論を変えたっていいのである。だって、心が動いた今がスタートラインだから。一歩を踏み出すその勇気を応援する“ファイトソング”は鳴り響く。みんな幸せになってくれよな!

 

 

以下、ネタバレありパート!

 

 

 


 

いや慎吾マジ慎吾。いや凛ちゃんマジ凜ちゃん。最高だったよ。だいすきなふたり! まず慎吾が当て馬なので、凜ちゃんは当て馬の当て馬なんだけど、そこがこんなに魅力的なことってある? 慎吾に対するツッコミが全部自分へのブーメランになっちゃうことってある? まあそういえば『とらドラ!』では川嶋亜美推しの僕なので、こうやって遠いところから見えちゃうから動けない系の子はもう大好きですよ。凛ちゃんの口癖が「ばーか」なんだけど、その真意が泣ける。「私のばーかは大好きって意味だよばーか」ってもう大好き大好きじゃんばーか。泣ける。

 

凛ちゃんに抱きつかれて、片手で抱き返して慎吾がニヤっとしたタイミングで挿入された花枝の「負けた」という台詞が、もう完全に凛ちゃんの本気に慎吾が「負けた」と言ってるようにしか見えない。想いを伝えられた慎吾の鈍感っぷり、戸惑い、幼馴染としての友情、幼馴染としての真心、意識する感じ、簡単には触れない全方面への誠意、そして最後に見せたやっぱジャニーズ菊池風磨じゃんというイケメンハグにあの台詞。もう100点満点です。

 

「恋の取り組み」開始時点で、花枝は若干現実逃避の側面があった感あるけど、芦田さんはむしろ現実を見て、なんとかせねばとの思いで始めたので、その分立ち直りというか、思いを伝えるなどがスムーズだった印象。あの時点で、自分の欲しいものと現実に向き合う覚悟が完了しているってことだよな。ただ、思いついたやり方がストーカーじみていたり露骨だったりしただけで。ラジオで意味深な視線を送るな横断幕を垂らすなラミネート加工をするな!!!

 

耳が聞こえなくなる物語なので、芦田さんがコンペに出した曲は花枝が聞けない歌を、視聴者の我々が同じように聞けることはないのだろうなと思っていたので、むしろちょっと音が鳴って、オープニングやBGMで流れてたやつだ…337拍子は花枝でも分かる...!と嬉しい驚きだった。あと、『コーダ あいのうた』はいい映画です。


というか、劇伴はあの演出に限らず良かったです。音楽を扱うドラマだけあってか、かなり格好いい雰囲気で好き。

 

慎吾のフリップ芸にグッときたひとは映画『ラブ・アクチュアリー』を見てくれ

 

「サンシャインクリーニング」というから『リトルミスサンシャイン』みたく、みんなそれぞれ何かを失うけど大切なものを得る展開を予想していたが、想定よりもっと優しい恋の物語だった。


学園組はみんな想いを伝えることを選んだけど、伝えないを選んだ栗山千明が格好良かったのもよかった。その一歩だって大きな決断だったはず。

 

いつか慎吾が凛ちゃんに向き合う覚悟ができたときが、オレンジ色の髪を辞める時だと思う。その時は戸次重幸の床屋で髪を切って欲しい。幸せになれよ!

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