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映画『子供はわかってあげない』原作好きから見た感想

 

(C)2020「子供はわかってあげない」製作委員会 (C)田島列島/講談社


『子供はわかってあげない』



原作組。映画として、いやあよかったと思う。イイものだったと思います。そりゃあね、原作愛を拗らせた心の中のクソマインドな私が「いやーあのシーンをカットしたんかー」とか「あそこ見たかったっすねー」とか言い出さないと言ったら嘘になるけど、それを超えて愛おしいが上回った。そんな映画だった。な! 子供と大人の中間で過ごした、子供と親の物語。それは、あっという間だけど緩やかに間延びしたような夏。たいしたことが起こらない? いやいや。一大事ばかりだったではないか。な!

 

めっちゃわかる


漫画に限らず、◯◯の映画化のパターンって2時間程度にまとめなきゃいけないので、

基本的な流れを追い要所要所を抑え最後まで行くダイジェスト的

丁寧に描くけど途中のキリがいいところまでいく

原作のエッセンスを抽出しながら割と改変して再構築 

のパターンがあると思っているけど、今作はですね。結構変えてきた印象だ。(故に心の中の面倒くさいオタクが) 感じとしては、ボーイミーツガールというより、ガールミーツファーザーな仕上がり。もっと言えば、ミーツモカカミシライシな仕上がりの映画である。

 

 

主人公の朔田美波については、もうこれ完全に朔田さんだなと思ってひたすらニヤニヤしてしまった。これは映画制作側と解釈が一致しただけかもしれないし、僕が上白石萌歌のことが好きなだけかもしれない。まあとにかく、上白石萌歌の水泳部っぽさは異常。完全に水泳部そのもの。あと役作りでめっちゃ日焼けしてる。今年最高の健康系ヒロイン。

 

原作モノって、個人的には原作通りになぞると、いや原作通りなら原作読むしとなってしまいがちで。これは邦キチでも言及がありましたね。だからこそ、特に序盤は映像化したら意義を感じるシーンが続く。だってさ、『魔法左官少女バッファローKOTEKO』にあんな尺とると思わんでしょ。あんな声優豪華だとは思わんでしょ。普通にあのアニメ放送して欲しいっす。あとは、朔田さんの水泳シーン。かなりグっとくるカメラワーク。GoProで撮ったのかな(多分違うけど)と思わせるような、美波視点での泳いでいる映像。同時に、泳ぐ時はひとりみたいな少し孤独感を感じつつ。途中プールの中で一回転する映像に、そうそうクイックターンやんけとかつてのスイミングスクールのことやプールに行ったときのことを思い出す。そう、この映画はあの日に感じた夏の匂いがするのだ。

 

原作漫画は上下巻で2巻構成だけど、この映画もやっぱり実父に会うまでの前半と、会ってからの後半で空気が違う。チャキチャキ動いた前半、そして夏の終わりみたいな、すぐ終わりが来ちゃうけどゆるゆると過ぎる時間。だけど、夏はまだ終わらないんだ。

 

高校2年生。子供でも大人でもない。自分が手にしたものを誰かに伝えて、自分の中に芽生えた想いを伝えて。そうして大人になっていくのだろうか。何かを伝えることで、誰かの中で生きていくのだろうか。そのひとを忘れても、あの日感じたことを忘れない。そして、忘れられないひとには、会いに行ったほうがいい。ひとそれぞれ抱える色んな事情を、ゆるやかに受け止めて肯定する優しい世界。そんな穏やかな世界で、発狂しそうになる出会いを果たしたふたりに乾杯!

 


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以下、原作との違いについて。ネタバレあり!

 







えー。原作組が見たら気になる(可能性がある)ところを、まずは箇条書きします。というのも、避けては通れないのでな!

 

・犯人探しの件が全カット

・門司くんのキャラ付け

 

正直なところ、自分もお金持ち出しの犯人捜しのところがまるまるなくなっているのはかなり驚き。だから、その関連のいいシーンはわりとないし、お兄ちゃんの活躍シーンもほとんどないです。善さんも全然出ないっす。その分、実親と美波の交流にかなり多くの時間が割かれております。たしかに2時間の枠であれもこれも描くのは難しかったのかもしれない。逆に実父が原作に比べて美波と交流を図ろうとしてくるし、トヨエツのサービスショットもあります。だから映画としては成功していると思う。とはいえちょっと寂しい。

 

家族の話に絞ったことで、今の美波の家族の幸せそうな感じが鮮やかで。そこがちゃんと幸せだからこそ、その幸せが崩れてしまわないかなという不安を抱えながら実父に会いに行く覚悟が胸にくる。それは冒頭のアニメの後の長回しのシーンから、「この映画はここに向き合うんだな」と思わせる、この映画の覚悟を見たわけで。

 

もっと言えば、原作ではクスっと笑えるギャグ会話とこの犯人探しの部分が、シリアスになりすぎないように、美波の本心というか影をうまいことぼやかして隠している部分があったと思うんだけど、そこが薄まった分、余計に葛藤や普段の明るさの反動を思って泣いちゃった。たぶんわかってたお母さんとお父さんを想うと、また泣けてきちゃうね。

 

門司くんについては、かなり厄介原作勢みたいなことを言うことになり恐縮なのだが、、、やっぱりもうちょっと飄々としてるイメージなんだよなあ~~。いやあ、単体で見たらあういうキャラ設定のリアリティはあると思うんだけど…思うんだけど、ね。あとこれは誰も悪くないけど、目が細い印象の門司くんに細田佳央太くんの瞳は美しすぎるのよ。(笑)

 

そういえば細田くん主演の『町田くんの世界』でも原作に比べて、かなり飄々とした感じは削り取られており…アニメだとそういう低体温系主人公はよく見るイメージあるけど、映画だと作劇的に難しいんだろうか。

 

まあ今作は朔田さん目線の話なので、門司くん要素が薄まるのは仕方ないんだけど、ちょっと門司くん側が朔田さんを好きになる要素が...と思ったけど、あんな可愛い上白石萌歌を目の前にしたら好きになるわな。うむ。今作の門司くんは優しく大らかに受け止めるという感じだけど、原作の門司くんは、なんというかフラットに受け止める感じなのよね。いい意味で全然気にしていないっていうか。そんな門司くんが気になってしまった存在が朔田さんだったわけで…。ただ、これは刊行当時と映画公開時における若者像の変化なのかもしれない。アニヲタであることを全然隠してなかった辺りに、そんなことを思いました。

 

何はともあれ、いい実写映画だった! な! アデュー。

 


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