2020年映画ベスト10
1月に良作が続いて、2020年はとんでもない年になるぞ…!と思っていたら、別方向でとんでもない年になってしまいました。新型コロナウイルスの影響もあり、4月と5月は鑑賞数が0本。その後は、体調管理等に留意しつつ劇場に貢献するという大義名分を得て、例年並みのペースで鑑賞しまして合計64作品でした。本当はレア・セドゥとアナ・デ・アルマスどっちが好き? どっちも好き。という年になるはずだったんだけどなあ。今年のまとめ、今年のうちに!
10.『パラサイト 半地下の家族』
今年を代表する1本。今となっては、あれパラサイトって今年だっけと遠い昔(先行上映が19年末でしたっけ)に感じてしまうが、2020年の幕開けにふさわしい、暗黒社会派エンタメバイオレンスエログロコメディ作品だった…って何映画だよとなるはずなのに、ちっとも散らかないどころか、完璧にまとまる超緻密で完成度が高い作品。強度が違う。テーマが社会派なのでもストーリーもその他の要素も面白いから、もうどんどん話題になるのよね。アカデミー賞も受賞して、今年いわゆる一般層も含めていちばん盛り上がった映画になる、、、と10月くらいまで思ってましたよ。よもやよもやだ。“半地下”に暮らす貧乏なキム一家が、ひょんなことから高級住宅に住むパク一家で働くことになり、そこからどんどんその金持ち一家に寄生(パラサイト)していくというストーリー。寄生していくまでの流れは本当コミカルでテンポよくて面白くて、真似したくなるインターホンや名言もあり、そしていちいち画面が強い。そんな中、映し出されるのは階段、坂道、雨。小さな意味深や不穏の積み重ね。前半は笑えたのに、後半は全然笑えない。日本が『万引き家族』なら、韓国は『パラサイト
半地下の家族』なのだ。そういえば、年明けにはいよいよ金曜ロードショーで放送とのことだけど、その、いろいろ大丈夫なのか? とりあえず僕らはチャパグリ準備して待機しような。そしてまた、奥様派か娘派か妹派かで盛り上がろうな!
『パラサイト 半地下の家族』みなさんはきっと奥様派でしょう。僕は大きな声では言いませんが娘派です#パラサイト半地下の家族 #パラサイト激ヤバ pic.twitter.com/KSOKglW97s
— オガワヘヴンリー (@k_ogaga) January 11, 2020
チャパグリ 4人前 チャパゲティ2袋+ノグリ2袋 짜파구리
9.『オン・ザ・ロック』
ソフィア・コッポラ×A24。これは完全にサブカルホイホイな組み合わせだし、見事にホイホイされましたよ。まんまとアゲられたよ。夫の浮気を疑う妻が、超プレイボーイである父と夫を尾行するという、すこし昔の映画ノリも感じるなんじゃらほいな話なんだけど、これがいい具合に軽めの手触りかつ感情のレイヤーが鮮やかで、妙にしんみりさせられる。ちょっぴり切ない父娘のスパイごっこ。とにかくこの父娘の関係性が愛おしいし、とにかくビル・マーレイ演じるこの父親が何をしても許される。スポーツカーでキャビア食べるのよ、2020年に。許されたイケオジ。ニューヨークの街を舞台に、ソフィア・コッポラ真骨頂であるお洒落な音楽と映像は、すこし背伸びして世界を覗かせてくれるよう。そして予想に反して、ウィットに富んだ会話劇が繰り広げられ、どこかウディ・アレン作品の匂いも感じるのだ。恋でもなく嫉妬でもない、だけど歪な父の娘に対する感情。結局、この親子が成長したとか、なにか変わったかと言われれば、なにも変わってないかもしれない。だけど、なにも変わらなかったかと言われれば、きっとなにかが変わっているんだ。まあいつもの雰囲気映画っちゃ雰囲気映画なのかもしれないけど、こちとらそれを見に来てますからね。だんだん世の中から減りつつある、ザ・ロマコメな男を堪能できるという点でも価値があります。
レイニーデイ・イン・ニューヨーク(字幕版)
8.『朝が来る』
永作博美に届いた「子供を返してください」と謎の女性からの電話。これまた永作が盗んだのか…と某名作へ思いを馳せましたが、今回は養子縁組で正当な手続きを踏んでいました。養子を迎え入れる夫婦と、養子に出さざるを得なかった彼女。軸となるふたつの立場の話が、電話をしたのは誰なのか?というミステリーを含んで進行していく。とはいえ、まあミステリー要素は薄めで、むしろどういう経緯でこうなったのか、と描かれるプロセスが辛くてな…。結末に向けてエピソードがひとつに繋がっていくとき、そうだよなそうなっちゃうよなみたいな苦しさと無念さがこみ上げてくる。それぞれの話を、それぞれのキャストが力強く引っ張っていくのだけど、特に後半の蒔田彩珠さんは優勝。普通っぽい振る舞いのなかに影とか喪失を宿すのが天才的 (『星の子』もよかった)ですね。ドキュメンタリーっぽい映像があることで、映画と現実溶け合うように境界線が曖昧になり、世界に引きずり込まれていく。登場人物それぞれの気持ちがわかるから、多方面に感動して、多方面に抉られる。つら。海は命。朝は希望。みんな幸せになってほしいな。本編終了後の凄まじい余韻を前にしたら、これでもかとインサートされる日差しや海や月の映像も気にならなくなるものですよ。
八日目の蝉
7.『佐々木、イン、マイマイン』
笑ってもっとベイベー、佐々木にインマイマイン。俳優業もうまくいかず、別れた彼女との同棲も未だに続いている主人公が、高校時代の友人“佐々木”との日々を思い出す。ドルチェ&ガッバーナの香水がなくとも、鮮明に思い出す青春時代。佐々木とは、佐々木コールが鳴ると、どこでも全裸になるような男である。いや、やべえ奴じゃん。でも、他人から見たらやべえ奴でも、俺らにとってはスペシャルという存在は確実にいる。そして、その佐々木は単なるお調子者じゃあなかったんだよなあ…。現代から過去を振り返りながら描かれるのは、佐々木、自分の知ってる佐々木、そして知らない佐々木。佐々木は脱がされていたのか、脱いでいたのか、脱ぐしかなかったのか。そして僕らも、ああいうやついたなあと、自分が過ごした青春に思いを馳せながら、同時にあいつのこときっと全然知らなかったのだろうなと思わされるのだ。あの頃、確かにあった大切な日々。そしてそこからの脱却。忘れるだけでは進めない。たぶん大人になりきれない大人こそいちばんハマりそうな作品だ。え? 僕? そりゃドンズバもドンズバよ。あと、もちろん今作の萩原みのりさんにもドンズバ。青春の、光も影も孤独も残酷なほど鮮明に描かれていたし、ベスト・オブ・カラオケオール明けの朝焼け映画だ。佐々木!佐々木!佐々木!佐々木!
6.『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』
いやあ面白かった。そして最高にハッピー。私は最高、あなたも最高。だから私たちは最高で、そんな私達を君はまだ知らない。だけど、君も最高であることを私は知らなかったんだ。勉強漬けの日々を送り、輝かしい進路を勝ち取ったモリーとエイミー。だけど、パーティー三昧チャラチャラして遊んでいるように見えたパリピ達も同じくらいハイレベルな進学先を勝ち取っていた。え?おかしくない?そりゃなくない?となったふたりは、失った時間を取り戻すべく卒業パーティーに乗り込んでいくというドタバタ青春コメディ。LGBTQも人種も下ネタも全部フラットに巻き込んで突き進むふたりは最高。でもほんとうにふたり以外も最高で、人気者の生徒会副会長も、ビッチも、リッチも、神出鬼没の彼女も、どことなく鈴木福くんっぽいスケーターも、パンダのぬいぐるみもみんな最高。そして何より、ダイアナ・シルヴァーズさんが最高...。知性を感じる美しさに、ふとした瞬間にとんでもない色気が溢れ出ている…。ストーリーも王道で、応援上映があったら思わずFuuuuuu!と叫びたくなるようなクライマックス。青春って終わりだけど、終わりじゃない。明るい未来の予感と多幸感を浴びて、青春が既に終わっているおじさんも大いに楽しめました。そんな青春が終わった僕がこの映画から得た大事な教訓はというと、Bluetooth再生には気をつけろということです
5.『僕の好きな女の子』
『君の膵臓をたべたい』のふたりは友情を越え恋愛をも越えた、愛と敬意で結ばれた関係だと思ってるんですけど、「自分こそはあの子とそういう関係を築いている」と思ってる男の心をグサグサ刺して致命傷を与える映画『僕の好きな女の子』は現在公開中だよ!#君の膵臓をたべたい pic.twitter.com/Coe8MgFz1L
— オガワヘヴンリー (@k_ogaga) September 4, 2020
はあ。本当はこの作品なんて全然響かないわー共感できねーみたいな感想を抱きたかったですねえ。響いてしまった。どうしようもなく刺さってしまった。主人公をヘタレだなって笑いたかった、それじゃダメだって激励したかった。これは、好きな子に好きだと言えない男の物語。ただ、これだけ。それ以上でもそれ以下でもない。片思いがいちばん美しいとか、友達以上恋人未満がいちばん楽しいとか。わかるなあ。あの子とは恋愛対象を越えた関係性なんだ。わかってしまうなあ、、、。スクリーンに映る菜緒さんに3秒で恋をする。これはします。これはずるい。あんなん非モテにとっての理想的ヒロインだもん。くだらない会話のテンポの良さ、というかずっと続く生感ある会話。絶対に君は僕のことを好きにならない、からこそ実現する居心地の良い関係。現状維持が不毛なことくらい痛いくらい分かっているんだよ。そして正論を言うきつめの顔の後輩ちゃん(萩原みのりさん)の破壊力。後輩の正論、切れ味。もう致命傷になりかねませんよ。まあ、この手の奥手主人公映画って、そうは言っても最後は的な展開あるじゃないですか。ヒント:主演が渡辺大知、シネマカリテで上映、原作又吉直樹、というあたりで色々察してほしいですね。いやー。ラストの解釈含めてわりと座談会とかしてみたい。幸せになりたいっすね。
【Amazon.co.jp限定】僕の好きな女の子(ビジュアルシート付) [DVD]
先着特典アリなので、ホームページをチェックだ。http://yoshimoto-me.co.jp/artist/bokusuki/news_detail/6302/
4.『アルプススタンドのはしの方』
エモエモのエモ! 笑顔で泣いた! 爽やかな風が吹いている! 全国高等学校演劇大会で金賞受賞した舞台を原作とした、75分の会話劇。野球シーンが一切映らない青春野球映画だ。予算の都合なのか、アルプススタンドというタイトルながら、ロケーションが甲子園じゃないので正直すこしノイズにはなる(映像化の難しいところ)けど、これ地方大会なんだなくらいの気持ちで見れば大丈夫。個人的には青春方面はもちろん、結構コメディ方面でも評価しており、大いに笑った枠でのランクインでもあります。演劇部×2、元野球部、帰宅部の4人がいるのがアルプススタンドのはしの方。特に演劇部は最後の大会が部員のインフルで出場できなかったという設定が、このコロナで出場できなかった多くの部員たちとリンクしてしまいますね。基本的には舞台っぽい作りで、会話や立ち位置で流れや心情を伝えていく。75分だからか結構な割合で会話が伏線になっていて、終盤にむけて感情の移り変わりがうねるように熱を帯びていくのが心地良い。はしっこの4人に加えて、いわゆる真ん中の吹奏楽部部長と熱血漢の先生にも抱えているものがあるなど、エピローグふくめて優しい映画。諦めることを諦める、しょうがないはしょうがなくない。ど真ん中に真っすぐすぎるメッセージ。主題歌も良いし、一度映画を見たあとだとこのMVで泣けます、4回泣けます(おい)
3.はちどり
『パラサイト』がチャパグリ映画なら、『はちどり』は超チヂミ映画である。94年の韓国。14歳のウニは学校に馴染めず、両親は仕事が忙しく、孤独な思いを抱えていた。しかし、通っていた塾にヨンジ先生がやってきてから次第に心を開いてく。ひとりの少女の日常にフォーカスして、繊細に切り取られた世界。思春期、友情、自己の悩み。そこに影を落とすのは、学歴社会、家父長制、そしてあの事件。この作品にはわかりやすい悪人はいない。同時に聖人君主みたいな善人もいない。だって、それが世界だから。この映画はそんなひとびとの多面性を眼差しと背中で語る。この物語は、ウニがひとびとに触れて、世界がすこし違う見え方をする話なのだ。それもどれもいわゆる“良い話”だけでなく、客観的には不幸だと思われるような状態で何かを得てポジティブな状態になったりする。辛いと思ってもポジティブな何かを得たり、いいことがあっても暗い現実に戻されたり。そしてどんな悲しいことがあっても、おなかはすくのだ。食べることは生きること。無言で頬張るウニの姿は、なんと強くて気高いことか。僕はね、いろいろな感情を飲み込みながらごはんを食べるシーンが大好きなんですよ。しかし僕も年齢的には先生側なので、いつまでも主人公の少女に共感している場合ではないのよね…。
ユリイカ 2020年5月号 特集=韓国映画の最前線 ―イ・チャンドン、ポン・ジュノからキム・ボラまで―
2.『ストーリー・オブ・マイライフ /
わたしの若草物語』
もう見る前から今年の優勝候補だなという予感があったし、オープニングの10秒で確信へと変わった。シアーシャ・ローナン×グレタ・カーウィグ、2018年のマイベスト映画が『レディ・バード』である僕が、本作が好きなのはもはや必然。“マイライフ”に“わたしの若草物語”って、どんだけ私なのよ、私以外私じゃないのよと思ったけれど、これは邦題つけたひとも素晴らしいです。四姉妹×過去と現在という合計8つを並行して飛び交う構成だけど、過去編と現代編の色味に注目すれば大丈夫。結婚だけが幸せではないし、結婚を選ぶことが不幸せでもない。様々な幸せを提示して、自分らしく生きていく力強さが描かれる。わたしの、彼女の、彼の、すべてのひとの幸せと自由。スクリーンに映るのは美女(長女)、美女(次女)、美女(三女)、美女(四女)、そして超美男(シャラメ)である。空前絶後の眼福映画。衣装もすごく良くて、当時男性社会である出版の世界に挑もうとするジョーは、名前もふくめて、どこかボーイッシュというか男性的な服装だし、シャラメくんはなんでそんなバルーンスリーブなシャツが似合うんだろうな。そしてエマ・ワトソンの長女感は異常なので妻夫木聡の長男感と対決してほしい。でも結構シアーシャ・ローナンも長女感あるよな。フローレンス・ピューのシーンで祝祭のことを思い出したひとは正直に手をあげるように。
ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語 (字幕版)
1.『ジョジョ・ラビット』
大好きな映画になった。主人公ジョジョ少年の友達は、イマジナリーフレンドであるヒトラー。青少年集団ヒトラーユーゲントの立派な兵士になろうとするも失敗。そんな中、自宅にユダヤ人の女の子が隠れていることを発見する。ヒトラー信者だったジョジョだけど、彼女と交流していくうちに、聞いていたこと信じていたことが、間違いだったのではないかと思い始めていく。子供目線で描かれる戦争。ナチス映画なのにポップ。暴力に対抗するのは暴力ではなくユーモア。冒頭から可笑しくて、それは強烈な皮肉。徹底して滑稽に描かれるイマジナリーヒトラー。ジョジョとお友達のヨーキーは本当に無邪気でかわいいし、大人組の素敵な優しさには涙が止まらない。ジョジョの母親ロージーを演じるのは最高のスカーレット・ヨハンソン。愛と知性。戦時下でもお洒落を楽しみ、ジョジョを信じぬいた、強くて美しいひと。ワインの飲んでいるときの表情は忘れられない。そして昨年の『マリッジ・ストーリー』と並んで、2大スカヨハ靴紐映画であります。もちろん忘れちゃいけないキャプテンKと戦闘服。抱いていた固定観念や全ての壁を越えて、目の前の君と手を繋ぎたいと思ったんだ。自らの意思で選択して、すこし大人になった少年。そういえばオープニングのビートルズの歌で「アホなこと言うね~が脳内に浮かんだひとは同年代です、握手。
ジョジョ・ラビット (字幕版)
-2020年のヒロイン-
『ティーン・スピリット』『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』
エル・ファニング
『パラサイト 半地下の家族』
チョン・ジソ
『ラストレター』
広瀬すず
森七菜
『ジョジョ・ラビット』
スカーレット・ヨハンソン
『his』『君が世界のはじまり』
松本穂香
『37セカンズ』『僕の好きな女の子』『佐々木、イン、マイマイン』など
萩原みのり
『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』
マーゴット・ロビー
『ストーリー・オブ・マイライフ / わたしの若草物語』
シアーシャ・ローナン
『のぼる小寺さん』
吉川愛
『ドロステのはてで僕ら』
朝倉あき
『僕の好きな女の子』
菜緒
『ブックスマート』
ダイアナ・シルヴァーズ
『糸』
小松菜奈
『星の子』
芦田愛菜
『星の子』『朝が来る』
蒔田彩珠
『とんかつDJアゲ太郎』
山本舞香
『タイトル、拒絶』
恒松祐里
『泣く子はいねぇが』
吉岡里帆
『私をくいとめて』
のん
橋本愛
2020年もありがとうございました。来年もなにとぞ! よいお年を!
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