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『運び屋』感想 レビュー



(C)2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

『運び屋』


こりゃすごい。傑作だわ。イーストウッドが画面の中に立つだけで物語が生まれるのか。しかしかなり軽快で楽しい話だった。いや楽しいって感じでもないはずなんだけど、重くない。そしてめちゃめちゃテンポ良い。しかし考えれば考えるほど、綺麗事では片付けられないリアリティを描こうとしている気がする。老いと孤独。仕事と家庭。差別と偏見。


劇中で黒人に対してナチュラルに「ニグロ」と言って、黒人側から今は黒人って言うのさと指摘されても、それを謝ったり反省したりするシーンはない。他にも、ある店にメキシコ系のヤクザが入ってジロジロ見られるシーンでも、こともなげに白人だらけの店だからさなんてことを言う。警察とのやりとりも白人高齢者だから怪しまれない的なシーンもある。だけど、それをこの映画はどうこう言ったりしない。現状、差別や偏見はある。じゃあ君達はどう生きるのか。それを提示しているように思える。麻薬マフィアの人は当然悪ではあるけど、11人はとても気さくでいい奴として描かれている。


主人公のアールは、仕事一筋で元気な男だが、いわゆる品行方正ではなく、今の時代じゃ危うい言葉も平気で使う。そして外では自由に過ごして評判の良い人だったが、家庭では違った。娘には愛想を尽かされている。娘役に実の娘を起用したのも、法廷シーンであんな台詞を言ったのも、全部イーストウッド自らが家族に対して言いたかったことだったのではないか。


時代の波に取り残され、仕事も失い、いわゆる居場所がなくなった主人公が、切実に居場所を求める姿は、一見台詞のコミカルさに隠れるが、つらいものがある。しかし『グラン・トリノ』を思うと、結局異なるカテゴリーでの繋がりより、血縁の繋がりに戻った、そして今作のビターなラストに、グラン・トリノのあの頃より希望を持ちにくくなってしまったのかな、と考えてしまうな。

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