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『ファースト・マン』
チャゼル監督全開。『セッション』『ラ・ラ・ランド』同様、素晴らしい音楽と映像、掴みバッチリの冒頭、微妙なストーリー展開に、チャラにするくらいのラストパワープレー、という構成ながら、今作に関しては、狭い世界の描き方が、シャトル内および自分との戦い的な部分にリンクして、非常に効果的だったかと思う。
史実との整合性は正直なところ不勉強でチェックしていないので、なんとも言えないのだが、主人公であるアームストロング船長という男は、とにかく無口で喜怒哀楽が表情に出ない。しかも、それをライアン・ゴズリングが演じるものだから本当に感情の置き所がないし、故にカタルシスを感じづらいという指摘には納得できる部分はある。相変わらず物語の起伏も乏しい。
しかし、宇宙飛行士という職業柄、あまり喜怒哀楽がはっきりしててもどうなんだ?
という気持ちはある。あれだけどんなことがあっても、クールに対応出来る故、船長が務まるのだ。イーストウッド的な主人公像とも言える。あと、同時に感情の起伏があるゴズリングなんて見たくないというのもある。ゴズリングの魅力はあのゴズり顔、ゴズるからこそゴズリングなので、ゴズらないで一喜一憂する役は藤原竜也あたりがやればいいのだ。
本作は、ストーリー的にも映像的にも、かなり一人称のスタンスである。それ故に、定点観測というか、ドキュメンタリー番組というか、VRというか、まるで本当にシャトルに乗って一緒に月に行った気分になる。
宇宙映画定番の外からシャトルを映すシーンはほとんどなく、顔や機内の機械のアップばかり。だが、それによりシャトル内部の物理的、そして宇宙飛行への心理的圧迫感が伝わる。また、想像以上の画面のブレ、そして距離感や方向がわかる音響。宇宙空間で無音になる緩急。個人的にはゴズリングが無表情でも、BGMはノイズが混じるというか結構不穏で不安を煽るものであり、心情とリンクしてる部分もあったのかなと思っている。前作とは違い、「静」を際立たせる為の音という感じだ。
「人間にとっては小さな一歩でも、人類にとっては大きな飛躍」かもしれない。しかし、アームストロング個人にとっては、それまでの幾多もの失敗や悲しいことを経て、重い重い踏みしめるような一歩であったのかもしれない。その心情に対比するような美しい月。ゴズリングが選ばれた理由と言わんばかりの万感なゴズリング顔に、ラストカットのガラスの反射。全編に渡って、チャゼル監督の「どうだい?センスあるやろ?」感を感じないことはないが、今作に関しては屈服である。良い映画だった!
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