2018年もあとすこし。今年の感想は、今年のうちに。核心はついてないけど、物語には多少触れているので自己責任でよろしくでーす。
2018年ベスト映画
1.『レディ・バード』
2.『ペンギン・ハイウェイ』
3.『スリー・ビルボード』
4.『タクシー運転手 約束は海を越えて』
5.『累 -かさね-』
6.『判決、ふたつの希望』
7.『リズと青い鳥』
8.『A GHOST STORY / ア・ゴースト・ストーリー』
9.『バッド・ジーニアス』
10.『若おかみは小学生!』
1.『レディ・バード』
昨年が『スウィート17モンスター』なら、今年は絶対に『レディ・バード』だ。ああ愛しいレディ・バード。たまらないなレディ・バード。閉塞感溢れる田舎の高校からニューヨークへの進学を夢見るクリスティン。いや、自称レディ・バード。友達にもそう呼ばせる痛い主人公を演じるシアーシャ・ローナンは、17歳役にしては貫禄がありすぎるのでは、と思わないわけではないが、多感な時期の女子高生を見事に演じきったと思う。本当に女子高生に見えてくる不思議。田舎の閉塞感、そこから脱したい、何者かになりたい。だが何物にもなれていない。大人が皆通った思春期の、モラトリアムの通過儀礼ではあるけれど、当の本人からしたら大問題なんだよな。映画としてみれば、そんな劇的なことは起こっていないかもしれない。だけど、レディ・バードには、あの頃の僕らには、そのすべてが特別で大切だったのだ。友人、両親。離れて、失って気づく大切さ。怒涛のような高校最後の1年間をハイスピードでテンポよく、ギャグも交えてちょっぴりしんみりするバランス感覚。ラストシーンの余韻も最高。明らかに綺麗なレディになったシアーシャ・ローナンのカットを見て、青春の終わりを実感する。こじらせた人(僕)には、間違いなく刺さる本作。シアーシャ・ローナンだけじゃなく男性陣も良くて、ルーカス・ヘッジスは泣かせてくるし、今をときめくティモシー・シャラメくんは明らかにモテるいい具合のクソ男でオススメ。しかし、父親よ。母娘が大喧嘩してる横でソリティアやるのは良くない。
2.『ペンギン・ハイウェイ』
森見登美彦好き、原作好き、そしてペンギン好きな僕だが、それを差し引いても傑作だった。まず、年上のお姉さん(CV.蒼井優)が主人公のことを「少年」と呼ぶ時点で100点。そんな蒼井優なお姉さんに「少年」と呼ばれる主人公アオヤマ君は、大人になりたい小学4年生。一日一日、世界について学んで、学んだことをノートに記録し、きっと将来は偉い人間になる男の子。夏休みに街中に出現したペンギンの謎を解決しようと奔走する。その先々でトラブルが起こっても、アオヤマ君は動じない。ミナミアオヤマ君なら紛糾しそうなことにも、アオヤマ君は決して起こらない。なぜならおっぱいのことを考えているからである。四畳半、夜は短しでお馴染みの、森見登美彦×ヨーロッパ企画作品だが、原作が森見作品では異色ということもあり、風合いが全然違う。原作のエッセンス、手触りをしっかりと残しながら、構成を変え、アニメーションの力で躍動感ある作品に。これぞアニメ化する意義。ペンギンの謎、お姉さんの謎、世界の謎。これは謎解きミステリーではない。そんなに簡単に謎が分かってたまるか。謎に向かう道のりの話なのだ。また、アオヤマ君たちを見守る大人たちが本当に良い。アオヤマ君たちを過保護にせず、しかしヒントを与えて導いてくれる。シュガーラッシュのラルフは見習ったほうがいい。全編が愛に溢れていて、僕の目には涙があふれた。最高のSFジュブナイル。夏の終わりが君をさらっていく。あと、パンフレットがかなり充実の内容なので、見つけた人は買ったほうがいい。
3.『スリー・ビルボード』
圧倒的完成度の脚本に超怖いおばさん。フランシス・マクドーマンドはアカデミー受賞納得の演技。ほんと圧が違う。『グラン・トリノ』のイーストウッドと対決してほしい。レイプで娘を殺された母親が、警察はなにをやっているんだ?
と3枚の看板広告を出すのだが、これまた真犯人探しというストーリー展開ではない。スリー・ビルボードというように、3人の登場人物の話で、全員が一見ステレオタイプなキャラクターに見えるが、意外な事実が明るみになる。この映画はよく聞く「正義の反対は、もうひとつの正義だ」を体現していて(正義と言うより信条くらいの感じだけど)登場人物それぞれの言い分は理解できるし、みんな悪い人でもないけど、いい人でもない。それがそうThe人間。だからバイオレンスと人情物語が同居する、ハートウォーミングハードボイルド映画となっている。そして、とにもかくにも、オレンジジュースと最後のドライブが必見なので、これから自宅で見る諸君はオレンジジュースを用意してから見るように。(火炎瓶でも可)
4.『タクシー運転手 約束は海を越えて』
このポスターを見て、韓国の下町人情モノかな? と思った人は、今すぐこのページを見て映画を見てほしい。それが一番このソン・ガンホ演じるタクシードライバーの心境に近いはずだ。ザ・下町のお調子者父一人娘一人の貧乏タクシー運転手が、金目当てで外国人記者を光州まで乗せていくのだが、到着した先で現実を目の当たりにして、どんどん物語とソン・ガンホの顔がシリアスに。コメディ映画と思いきや緊迫のドキュメンタリー映画だ...と思いわせて終わらないのが韓国映画。善良な人にどんどんフラグを建てていき、終盤は二転三転させる熱い展開に。最後はまさかの手に汗握ってアドレナリン大放出のカタルシス。涙。ラストも心憎い。実際に起こった光州事件の話で内容的にはヘビーで恐ろしい話なのだが、序盤の人情パートや終盤の畳みかけなど、エンタメ作品としても面白くなっている点が素晴らしい。
5.『累 -かさね-』
良かっ太鳳...。とあまりの良さに僕は土屋太鳳をただただ褒めるおじさん、通称「良かっ太鳳じさん」になってしまった。そのくらいマジ土屋太鳳ぱねえっす。土屋太鳳なんて少女漫画原作のヒロインばっかり女優じゃん、という人ほど見てほしい。日本版ブラックスワン。超個人的な話をすると、公開時TVドラマ『チアダン!』を絶賛視聴中で、なんで土屋太鳳は薄っぺらい台詞がこんなに似合うんだろう? と思っていたのだが、似合うのではなく、それは単に土屋太鳳のパワーだったのだと思い知る。美人だけど演技がダメな土屋太鳳演じる明るいニナと、演技天才だけど顔にひどい傷がある暗い累(芳根京子)がキスをすると、私たち!
入れ替わってる! 設定のため、劇中では2人が1人2役をやっている状態になるのだが、例えば累がニナの顔でニナを演じた状態で演劇の役を演じるという多重構造があるんですよね。さらに入れ替わりを繰り返し、物語が進むことで二人の境界線が曖昧になってくるのだが、そこも曖昧に見えるように演じている。入れ替わっても入れ替わってなくても、今、どちらの外見にどちらの人格が入っているかちゃんと分かるのだ。2人のキスと、演技の殴り合いを刮目せよ! そしてみなさん、「バーフバリ!」の次は「ヨカナーン!」ですよ。
6.『判決、ふたつの希望』
レバノン首都ベイルートで、レバノン人のバルコニーから、工事現場で働くパレスチナ人に水がかかったことから始まる、暴言暴力、報復復讐、裁判沙汰、国家を巻き込む政治問題に......。これが本当の水掛け論......(すみません)恥ずかしい話、僕はこの問題に対して、大した知識はないけれど、わかりやすく、かつ映画としてテンポよく描いてあるので、構えずに鑑賞できる。むしろ構えずに見れるように作るのだという気概すら感じる。劇中での裁判を通じて、なぜ彼がパレスチナを嫌うのか、歴史が、対立が掘り返されて明らかになっていく。未来にすべきことは頭ではわかっていても、過去の出来事がそれを阻害する。物語の経過につれ、ミクロの問題がマクロの問題に変わっていくけど、今を生きる僕たちは、ミクロで向き合っていくしかないのだ。きよきよしい、清々しさを感じさせるラストは可能性であり、願いであり、希望だ。
7.『リズと青い鳥』
『響け!ユーフォニアム』シリーズの映画化作品。主人公が僕の推しキャラ黄前ちゃんではなく、黄前ちゃんの一学年先輩である、フルート希美とオーボエみぞれ(なんか芸名みたいになってしまった)の物語。この作品はとにかく絵で語る。絵で語る。音で語って、絵で語る。歩き方、靴の履き方、カメラがぶれる演出、きっと汲み取れていない意図がまだまだあるので、有識者の解説上映とかしてほしい。気持ちの通りに言葉を発するわけではないし、そもそも抱いた気持ちがひとつだけなんてことはないよね。というのをきちんと表現した映画だと思う。だからクライマックスのあの「ありがとう」が泣ける。『とらドラ!』櫛枝みのりんとかもそうだけど、明るく元気にふるまう子の実は抱える心の闇的な話は、生々しくてつらいよな…(好きです)だけど、やっぱり物語はハッピーエンドがいいし、希美がそう言うから、この映画はハッピーエンドなのだ。
8.『A GHOST STORY / ア・ゴースト・ストーリー』
自動車事故で命を落としたC(ケイシー・アフレック)は、白のスーツを被ったゴーストとなり、妻M(ルーニー・マーラ)に会いに行き、自宅を彷徨いながら見守る。「死」を死者の目線で描いた作品だ。よくある、幽霊の手助けで、残された人が前向きに生きようと決意した、みたいなそんな話ではない。Cは待つしかできない。取り残され、大切だと思っていたことさえ忘れてしまいそうになっても。その無常さを如実に伝えるカメラワークや演出。Mがひたすらパイを食べるシーンは圧巻。自分の時が止まったままでも、どうしようもなく時は流れていく。取り残され者は、ある意味では取り残した者。なぜ、なにも語らない、表情も見えないシーツから、感情が伝わってくるのか。なぜ、ただ部屋の中を彷徨い、見守るだけなのに、心が揺さぶられるのか。ちなみに、映画の大半はCはシーツで顔が見えないので、ケイシー・アフレックの顔が好きな人にはあまりおススメしない。あと、数少ない欠点として序盤がとにかく眠くなるので、睡眠十分の状態で見ましょう。
9.『バッド・ジーニアス』
2018年のハラハラドキドキ枠。タイ発の青春学園クライムサスペンス映画。オーシャンズシリーズや、主演トム・クルーズだと、もう失敗する要素がないんで超安心で見れるけど、今作はそうはいかない。カンニングのアイディアは試したくなるし、それを計画して実行していく様子は実にスリリング。非常に面白かったですねえ。内包するテーマは社会派。ちょっと貧乏な天才、貧乏な秀才、人当たりが良い大金持ちのバカが登場するのだが、タイの格差社会を思うと結構ビター。現状、きっと普通に暮らしていたら、金持ちは金持ちのまま、貧乏は貧乏のままになってしまうのだろう。だからこそ、あの方法に食いついたのかな。そりゃあ正攻法が一番なのは、みんな知っている。だから、例えば違った結末だったとしても、大金持ちは普通におおきな転落もせずあの位置に居続けて、いくら頭が良くても…という展開になりそうで厳しい。
10.『若おかみは小学生!』
最近のトレンドとして、自分らしさ、好きなものを貫くという価値観が多い中、ある種与えられた環境、役割に適応して生きていく話であった。資本主義。働かざる者食うべからず。おっこ、いい子過ぎるよ...。価値観に賛否はあっても、作品のクオリティに関しては、満場一致で評価されると思う。両親をショッキングな事故で亡くす主人公おっこだが、最初は全く気にする素振りを見せない。心を殺していたのだと思う。だけど、幽霊と触れ、人と触れ、働き、居場所ができて、つまり「生活」を送ることで、初めて死を実感するまでの流れが素晴らしい。生を持って死を実感するのだ。そんなシビアなテーマがありながら、それをほのかに香る程度に抑えて、コミカルなやり取り、グローリー姉さんで緩急をつけて、全年齢対象可能な作品に仕上げたバランス感覚。絵柄が苦手でも要チェックだぞ!
現時点ではこの10作でファイナルアンサー。でも家でもう一回みたりすると評価かわることあるよなー。
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