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『リズと青い鳥』(ネタバレあり)感想 感情は単純じゃないけど、物語はハッピーエンドがいい


(C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会


『リズと青い鳥』
監督:山田尚子
声の出演:種崎敦美、東山奈央、本田望結 など


希美と過ごす毎日が幸せなみぞれと、一度退部をしたが再び戻ってきた希美。中学時代、ひとりぼっちだったみぞれに希美が声を掛けたときから、みぞれにとって希美は世界そのものだった。みぞれは、いつかまた希美が自分の前から消えてしまうのではないか、という不安をぬぐえずにいた。そして、二人で出る最後のコンクール。自由曲は「リズと青い鳥」。童話をもとに作られたこの曲にはオーボエとフルートが掛け合うソロがあった。「物語はハッピーエンドがいいよ」屈託なくそう話す希美と、いつか別れがくることを恐れ続けるみぞれ。童話の物語に自分たちを重ねながら、日々を過ごしていく二人。でも……。どこか噛み合わない歯車は、噛み合う一瞬を求め、まわり続ける。
(公式ホームページより一部抜粋)







僕はTVアニメ『響け!ユーフォニアム』シリーズが好きである。とはいっても、原作は読んでいないし、どちらかといえば正統派なスポ根モノとして視聴していた部分はある。だけど、個人的には絵柄変更に抵抗はなかった。


山田尚子監督なので、と意識的に見ていた部分はあるが、冒頭の鎧塚みぞれ(種崎敦美)と傘木希美(東山奈央)が出会い、音楽室に入るまでの一連の流れ。ここだけでも、歩き方の違いや、カメラがブレる演出、ずっと希美のあとをついていくみぞれ、靴の履き方など情報量が多すぎる。


すべての仕草、色味、音、表現に意味があるんじゃないか。そう思わせる、そして多分きっと意味がある映画なのだ。僕も100%理解できたとは全く思えない。しかし、素晴らしかったと宣言したい。


個人的にこの作品は、気持ちの通りに言葉を発するわけではないし、そもそも抱いた気持ちがひとつだけ、というわけでもないよね、というのをきちんと表現している映画だと思っている。


例えば、笑っていても内心は怒っていることだってあるし、涙が流れても悲しいのと嬉しいのとホッとしたのとで色々混じったのもある。そういう感情を、本物のようにというか正しく表現している。どうしても分かりやすく、言葉通りの感情で筋書きしてしまうことが多いけど、今作はそういったことに対する挑戦でもある。


上記のように、気持ち通りじゃない台詞の場合、声色や言い方だったり、台詞の代わりに視線や仕草で語る。色味や音でも語る。何を書いてもネタバレになってしまいそうなくらい情報量が多いのに、静かで淡い話で密度も濃い90分。


そのため、わかりやすさや、起承転結!といった要素は皆無である。TVアニメではわかりやすく〇〇大会といった見せ場があったが、今作は大会まで話が進まない。もっとも、相変わらず素人が聞いても違いが如実に分かるような、演奏シーンはある。しかし、それは練習である。そこが演奏面でおいては最大の見せ場なのだ。つまり、希美とみぞれの最後の1年、というような総集編でもなく、ある日常からある日常までを切り取ったような。ふたりの世界とその行方を、遠くの窓から隠れながら覗き見するような、そんな作品である。鑑賞後は覚悟してたより清々しい気持ちになった。


希美が「ハッピーエンドがいいよ」と言ってたから、というわけではないけれど、僕はこの作品は完全にハッピーエンドだと思っている。


なぜなら、全編通してずっと、ずーっと息が合わなかったふたりが、最後“ハッピーアイスクリーム”したわけで。冒頭ずいずい前だけを見て進んでいた希美が振り返ったわけで。しかも、あれが学校の外で。全編学校内での描写だったのに(プールに行ったシーンがなかったのもわざとだと思う)あの瞬間は外で。深読みすれば、鳥籠から飛び立ったと捉えてもいいのかなという気持ちになる。


あと、これは僕の思い込みかもしれないけど、最後の足音は前と比べて、みぞれは少ししっかりと、希美は穏やかに変わった気がする。別々の方向にわかれるカットも良い。


個人的に好きだったのは、やっぱりクライマックス。みぞれと抱き合ったとき(というか抱きつかれたとき)の希美で。どんな気持ちで「みぞれのオーボエが好き」と言ったのか、考えるだけで胸が苦しくなる。きっと「希美のフルートが好き」と言われたかった希美が、結局言われなかった希美が。


そして「ありがとう」三連発ただの感謝じゃない。きっと鑑賞したひとそれぞれの感じ方、解釈があるだろうけど、僕には「もうわかったから、わかってたから。もういいから。」と聞こえた。これでおしまい、と言わんばかりの。


しかし、希美。随所に独占欲というか黒い部分が見えるのが良い。みぞれが剣なんとかさんを誘ったと聞いた時の顔とか。『とらドラ!』の櫛枝みのりんもそうだったけど、元気な女の子の心の闇を描くのはなかなか生々しくて、つらくて、いいよな...。


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